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“オーストリア ラックレールの蒸気機関車アッヘン湖鉄道”


ウィーン方面からのオーストリア国鉄ÖBBの高速列車レイルジェットは、途中駅ザルツブルクを過ぎるとオーストリア国内の山岳路線を避けてドイツ鉄道の路線に迂回。ドイツ国内をノンストップの回廊列車として運行し、再びオーストリア国内に戻ると、ザルツブルクから1時間半ほどでイエンバッハ駅に到着します。

▲ イエンバッハに到着したレイルジェット

この駅では、2つの私鉄が接続していて、標準軌の国鉄を加えると3種類の軌間があります。南に向かう760mmのナローゲージの生活路線、ツィラータール鉄道には季節限定で観光用蒸機列車が運行されるものの、今回は時間がなくてパス。

北に向かい、アッヘン湖に至るメーターゲージのアッヘンゼー鉄道に乗り換えます。

▲ イエンバッハ駅

▲ アッヘンゼー鉄道の切符売り場はこの中

標高530mのイエンバッハから970mの峠を越え、標高931mのアッヘン湖を結ぶ全長6.8kmアッヘンゼー鉄道は、1889年の開業以来、130年近くにわたって蒸気機関車だけで運行してきました。

二階建ての国鉄イエンバッハ駅舎につながった一階建ての部分が、アッヘンゼー鉄道のイエンバッハ駅。土産物の売店を兼ねたカウンターで、アッヘンゼーまでの往復乗車券を購入します。

▲ 駅のホームのモニュメント

アッヘンゼー鉄道には160‰の急勾配があるため、イエンバッハを出てから途中の列車交換駅エーベンまでの間には、線路の間にリンゲンバッハ式のラックレールが設置され、これに車両の歯車を噛み合わせて登ります。国鉄とアッヘンゼー鉄道の共用のホームには、ラックレールと歯車のモニュメントが。

アッヘンゼー鉄道は、現存するオーストリア最古のラックレール式の鉄道です。構内の入口には、こんなゲートが立っていて、中央には歯車のマーク。

▲ アッヘンゼー鉄道のゲート

ゲートの下に設置されたラックレールと歯車の実物。蒸気機関車のピストンで駆動したホイールから歯車に動力を伝達する構造が見て取れます。

▲ ラックレールと蒸気機関車の歯車部分

ラックレールに噛み合うもう一つの歯車。これは動力を持たない客車の車輪でしょう。

▲ こっちは客車の車輪でしょうか

列車の出発まで時間があり、構内の向こうに扉が閉まった車庫らしきものがあるので行ってみることに。

▲ 向こうの車庫があるので行ってみることに

内部を見学させてもらおうと、大きな扉の真ん中に付いた小さな扉に手をかけると、鍵はかかっていません。中に入って声をかけてみたけど、誰もいない様子。

▲ 客車が1両

車庫の中には、赤と白に塗り分けたクラシックな2軸の客車が1両。車内に通路はなく、各ボックスシート毎に設けたドアを開けて乗車する構造です。

青と黄色に塗り分けた小さな客車は、片側にだけデッキがあります。手前に置かれた資材などを移動しないと外に出せないので、通常使用はされていないようです。

▲ この客車はなんでしょう

奥にはL型車体の小さな入れ換え用ディーゼル機関車。

▲ 入れ換え用のディーゼル機関車

その横では2両の客車を組み立て中。出来上がればクラシックなスタイルになるのでしょうが、実はアルミ製の最新型。

▲ 製作中の客車のようです

その裏に別の建物があり、4つの扉の前にトラバーサーが設置されています。もとは、右側のハンドルを回して手動で横移動していたものを、フォークリフトで動かすようにしたと見受けます。扉の上の壁が黒く煤けているので、ここが蒸気機関車の機関庫のようです。

▲ さらに奥の建物 フォークリフトで動かすトラバーサー

機関庫に向かう線路の横に給炭設備があります。石炭をベルトコンベヤーで貯蔵場所に上げ、重力で落として機関車に供給する構造のようです。

▲ 給炭設備

▲ 蒸気機関車に石炭を積み込む装置

給炭設備の横の本線は、駅構内の外れから急勾配にかかるため、ラックレールが始まります。その導入部分に、木枠に切ったゴムタイヤを貼り付けたものが設置されていますが、目的は何でしょうか。

▲ ラックレールの始まる部分

ウイキペディアによると、アッヘンゼー鉄道は、1889年の開業時に1号から4号まで4両の蒸気機関車を導入したそうです。4号は第二次世界大戦後に他機への部品供給のため書類上は一旦廃車となります。それ以後2005年までは残った3両で運行してきたが、古い部品や予備の部品を使って4号機が再建され、4両体制に戻ったのだとか。

2号機が1両の客車を牽いて山から下りてきました。何故か乗客は乗っていません。

▲ まずは2号機が客車1両を引き連れて山から降りてきた

▲ 続いて右側に3号機が客車2量を牽いて到着

続行運転で3号機が2両の客車を牽いて国鉄のホームの向かい側に到着。こちらから乗客が降りてくるので、2号機は団体客でもアッヘン湖に送り届けた帰りの回送列車だったのかもしれません。

▲ 3号機は一旦切り離して給水中

3号機は一旦客車から切り離され、機関庫の手前で給水を受けてから戻ってきます。

▲ 3号機が戻ってきて

▲ ポイントを切り替え

機関車は、急勾配で水平を保ってボイラを空だきしないよう、平坦線では前屈みの姿勢になっています。

▲ 客車の後ろに連結

機関車と連結した客車には窓があり、その前の客車は吹き抜けで雨の時に降ろすカーテンが巻き上げられています。いずれも車内に通路はなく、各ボックス毎に側面のドアから乗降する構造。

▲ 出発準備完了

再び3号機を2両の客車の後部に連結し、先頭の客車に前部デッキに前方監視の職員が乗車すれば発車準備完了。この前部デッキにもベンチがあり。車掌さんに聞いてOKをもらったので、この特等席に陣取ります。

イエンバッハからアッヘン湖畔のゼーシュピッツまで、アッヘンゼー鉄道の車窓を、まずは動画でご覧ください。

イエンバッハからアッヘン湖畔のゼーシュピッツへ

イエンバッハ駅の構内を出るとすぐに急勾配が始まるため、リンゲンバッハ式のラックレールが設置されています。ここを通過する時、客車の床下からガチャンと歯車とラックレールの噛み合いが始まる音が響きます。

▲ 駅構内の外れ この部分で車両のギヤと噛み合わせる

列車は右に左にカーブしながら住宅の庭先を抜け森の中へ。機関車は黒煙を噴き上げ全力で列車を押し上げます。イエンバッハから1.4kmのところにリクエストストップのブルゲック駅があったはずですが、いつ通過したのか気付きませんでした。

▲ 後押しで急勾配を登る

▲ 客車の前部デッキの職員

途中には踏切もあり、機関車が甲高い汽笛を鳴らし、前部デッキに添乗の職員は、屋根からぶら下がった機関車とつながる紐を握って前方監視を続けます。

デッキのベンチに座っていると、ここがこの鉄道で最も勾配のきついところだよと教えてくれます。視界が開けると、長閑な山里の景色が広がります。

▲ 車窓の風景


 

 

 

 

 

  

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