HOME 1/7page 2/7page 3/7page 4/7page 5/7page 6/7page 7/7page
西寧から同行のガイドが、切符と交換に乗客10名とガイドの計11名分の換票証を車掌から預かっていたので、テーブルに並べてみます。中国では列車の所属により色々な換票証がありますが、成都鉄路局成都客運段の換票証は縦長の小さいタイプ。号車番号と寝台番号が記入されていて、上段が緑、中段が青、下段が赤で色分けしています。
切符と交換する換票証 | 酸素を吸うためのビニールパイプ |
ゴルムド発車後に、車掌が乗客全員に配布した袋には、コネクタが付いたビニールパイプが入っています。青海チベット鉄道の専用客車は、高地を走行中は車内の酸素濃度を平地の80%程度に保つ設備を設けているそうですが、硬臥車の場合は廊下の壁面に酸素供給口があり、車内で高山病の危険がある場合はビニールパイプを鼻にセットして酸素を吸入できるようになっています。幸い、車内で使用することはありませんでしたが。
車体の壁面にある酸素供給口 蓋を開けてコネクタにビニールパイプをセットする |
列車は右に左に大きくカーブしながら高度を上げていき、草原地帯に入ってきました。いま通ってきた線路やこれから通る線路が車窓からよく見えます。線路は永久凍土の上に敷設されていますが、永久凍土が溶けて線路が変形しないよう、築堤を設け、野生動物の移動の自由を確保する目的も兼ねて高架橋と組み合わせているのだとか。
また、線路脇に一定間隔で立つ金属製のパイプは、地中の温度上昇を防止するためにアンモニア冷媒を封入した放熱杭だそうですが、どういう内部構造でしょうか。
線路脇の永久凍土融解防止パイプ | 通ってきた線路は築堤と橋の組み合わせ |
やがて、氷河のかかる崑崙山脈の白銀の山々が間近に迫ってきます。標高6178mの玉珠峰を頂点に、6000mを越える多くの峰々が連なりますが、車内の電光表示も富士山の山頂を越える4000m以上を表示しているので、車窓から眺める崑崙山脈との標高差は2000m。それほど高いとは感じません。
こんな高原にも遊牧民が暮らしていて、ヒツジが放牧されています。
崑崙山脈を背に 草原には遊牧民の住居やヒツジの群れ |
お昼になったので、車内を通り抜けて食堂車に向かいます。中国の旧来の食堂車は、火力の強い石炭レンジで調理しますが、車内に酸素を供給しているからか、あるいは最新の設備を導入したのか、青海チベット鉄道はIHコンロだとか。でも、中国新幹線の食堂車のチンする弁当に比べれば、立派な中華料理の数々がテーブルにならびます。
アルコールは高山病に良くないとかで、これから5000mを越える最高地点に向かう食堂車では、皆さん酒やビールは自重しています。
食堂車で昼食 |
やがて列車は、全長11.7kmの清水河特大橋を渡りはじめます。凍土の上にかかる橋としては世界最長だとか。
凍土を貫く崑崙山トンネルを抜け、標高4775mの崑崙山脈を越える峠を過ぎると白銀の山々は遠ざかり、標高4500m程の広大なココシリ国家級自然保護区に入ります。乗客はカメラを構えて車窓に釘付け。野生のチベットロバや、ヤクが草をはむ姿が車窓を横切ると歓声が上がります。
西蔵公路が線路と並行 | チベットロバ |
車窓にヤクの群れ |
列車はチベット族の住む小さな町、トトホー(沱沱河)を通過します。車窓をチベット仏教の白い仏塔と、色とりどりの祈祷旗、タルチョが横切ります。この付近の沱沱河は川というよりは広大な湿地帯のようになっていますが、これがタングラ山脈の氷河に水源を持ち、上海で東シナ海に注ぐ長江の源流だそうです。渤海湾に注ぐ黄河やベトナムに向かうメコン川の源流もチベット高原にあるのだとか。
空の雲が、手に取れるような低いところに浮かんでいます。
長江源流域 雲が低くて近い | チベット仏教の仏塔と祈祷旗タルチョ |
再びヤクの群れ | こんな所にも建物がある |
列車は、平原の中の無人駅に停車します。列車交換かなと思い、トイレに入って窓を開け、コンデジを外に出します。中国の列車のトイレは垂れ流し式のため、駅に停車する前に車掌が鍵をかけてしまいますが、青海チベット鉄道の客車はタンクを持っているため、駅に停車中も使えます。
トイレの窓の隙間から、大きくカーブした線路の向こうから列車がやってくるのが見えます。隣の線路を通過していくときカメラを前に向け、手探りで何回かシャッターボタンを押したら、使えそうな写真が2枚だけ撮れました。
もうすぐ駅に到着 | 交換列車がやってきた |
トイレの窓からコンデジを外に出し適当にシャッターボタンを押したら通過列車が写っていた |
列車は長江の源流に沿って、青海省とチベット自治区を分けるタングラ(唐古拉)峠に向け、高度を上げていきます。
こんな風景の中ぐんぐん高度を上げて峠に向かう |
再び、6000m級の白い山が姿を見せ始めます。タングラ山脈です。車内の電光表示が4700m、4800m、4900mと増えていきます。4000PSの発電エンジンを搭載する米国GE製のNJ2型DLの重連は、高地の勾配をものともせず15両の客車を牽引して高速でグイグイ登っていきます。
タングラ山脈の白い峰 |
皆さん、廊下の端にある電光表示にカメラを向けて、峠越えを待ちます。計測誤差でしょうか、標高5072mのはずのタングラ峠がALTITUDE 5084M と表示されます。峠といっても、なだらかな丘が続く開けた風景で、時刻は16時より少し前、標高5068mの世界最高地点の駅、タングラ駅を一切スピードを緩めることなく高速で通過。何とかホームの駅名標を撮りましたが、最高地点に立つ碑は見逃してしまいました。残念。中国の鉄道にゆっくり走るサービスを求めることは無理でしょうね。
ALTITUDE 5084M を写したはずが | タングラ駅を通過 |
カメラの液晶画面で写真を確認していて、ALTITUDE 5084M のLED表示の下半分が写っていないのを発見。慌ててシャッター速度を下げてもう一度撮り直したものの、既に標高は5000mを切っていました。
ところで、高地を走る青海チベット鉄道の客車は飛行機と同様の与圧装置を持っているといわれていますが、トイレの窓が開くこと、同行者の持っていた高度計の付いたデジタル時計が車内で正しい値を示していたことから、少なくとも乗車したN919次快速では、酸素は供給されていても車内の気圧は外気と同等だったと思われます。
標高5068mのタングラ駅 | 峠を越え高度を下げはじめる |
こんな所にもダンプカーが | 川の源流が続く |
タングラ峠を越えてチベット自治区に入った列車は、徐々に高度を下げていきます。舗装のない道路を、砂埃を上げてダンプカーが走り去ります。車窓には、湿原のような広くて浅い川が流れています。分水嶺を越え、地図で見ると長江、メコン川とならぶアジアの三大河川、中国雲南省からミャンマーを経てアンダマン海にそそぐ、サルウイン川の源流域のようです。